薄毛治療やED治療で話題の、成長因子とサイトカインってどんな物質?

ED

男性の薄毛やEDの新しい治療法として、成長因子やサイトカインを用いた治療法が話題です。これらは細胞を培養した上澄み液に含まれる成分の名前ですが、いったいどのような物質で、どのように薄毛やEDに効果を発揮するのでしょうか?

成長因子やサイトカインの特徴と、薄毛やEDに効く仕組みについて、解説します。

成長因子(増殖因子)とサイトカイン

成長因子(増殖因子)とサイトカインは、以下のような特徴を持った物質です。

成長因子(増殖因子)(Growth factor)とは、体内において、特定の細胞の増殖や分化を促進する内因性のタンパク質の総称。
  • 細胞の成長・増殖を促進する
  • 動物細胞の成長を促すが、栄養物質ではない
  • 主に非造血系の細胞に作用し、恒常的に分泌されている
サイトカイン(cytokine)とは、免疫システムの細胞から分泌されるタンパク質で、標的細胞は特定されない情報伝達をするもの。
  • 白血球を始め、多くの生体細胞から分泌される調節タンパク質
  • 細胞間相互作用に関わる生理活性物質
  • 細胞から細胞へシグナルを伝達し、主に細胞の分化増殖・アポトーシス・創傷治癒などに働きかける
  • 免疫系細胞に働きかけたり、炎症反応の調節を行ったりすることもある

成長因子とサイトカインは、「恒常的に分泌されている」「細胞の成長・増殖を促す」「栄養物質ではない」などの主要な特徴が似通っています。ある細胞から分泌され、別の細胞の受容体に結合して働きかけるため、それぞれの成長因子やサイトカインごとに特異的な反応を起こします。

具体的には、サイトカインや成長因子が細胞に到達すると、細胞膜にある受容体に結合し、そこから細胞内の核にあるDNAにメッセージが送られます。このメッセージにより、DNAからタンパク質が作られたり、細胞が分裂増殖を始めたりするのです。

成長因子(増殖因子)とサイトカインは同じ物質なの?

成長因子とサイトカインは、どちらも細胞から細胞へとメッセージを送り、何らかの機能に働きかける物質であることが共通しています。そのため、成長因子とサイトカインの明確な区別をせず、サイトカインは細胞間相互作用に関わる生理活性物質の総称で、そのうち主に細胞の成長・増殖、分化や活性化に関わる物質を成長因子と呼ぶことが多いようです。

成長因子やサイトカインはいわば一連の細胞の活性反応の鍵に当たるもので、例えば創傷治癒では、傷口に血小板が集まって止血し、白血球などの免疫細胞が傷を洗浄すると同時に新しい細胞が産生・増殖し、損傷した細胞を補います。これらの過程は別々に独立して起こっているわけではなく、それぞれの細胞どうしが互いにメッセージを出し合い、連鎖的に反応を起こしているのです。

これらの連鎖反応をつなぐ役割をしているのが、サイトカインや成長因子です。もともとは別の物質と考えられていたため、別々の分類名がついていますが、どちらの定義にも属する成長因子やサイトカインが続々と見つかっているため、今では境界が曖昧になっています。どちらかというとサイトカインの方が広義であることから、両者をまとめてサイトカインと呼ぶこともあります。

サイトカインや成長因子を使った治療は、なぜ薄毛やEDに効く?

サイトカインや成長因子は、細胞間の成長や増殖・分化、創傷治癒に関わる生理活性物質であることを前章でお話しました。このうち、EDには主に創傷治癒の働き、薄毛には成長や増殖を促す働きが関わってきます。これらの、患者さん自身の体が本来持っている機能を回復させることが、サイトカインや成長因子を使った治療の仕組みです。

サイトカインや成長因子がEDを回復させる仕組みとは?

EDは、陰茎の海綿体にある血管の内皮細胞が傷んでしまい、勃起に必要な血管の拡張が起こりにくくなる現象です。陰茎の海綿体にサイトカインや成長因子を含んだ歯髄幹細胞培養上清液を注入すると、損傷した内皮細胞に働きかけ、内皮細胞そのものを再生させることができるといわれています

ED治療に関わる成長因子やサイトカインは、主として「血小板由来成長因子(PDGF)」「血管内皮細胞増殖因子(VEGF)」です。血小板由来成長因子(PDGF)は血管新生の他、胎児の成長にも関与している成長因子で、血管や繊維芽細胞の炎症や創傷の治癒過程で多く発現することがわかっています。血管内皮細胞増殖因子(VEGF)はその名のとおり血管新生に関与する成長因子で、胎児期の脈管新生などにも関わっていることがわかっています。

サイトカインや成長因子は、従来のED治療薬であるバイアグラ・レビトラ・シアリスなどのように、内皮細胞が持つ分泌機能にだけ働きかけるものではありません。血管の内皮細胞そのものを再生し、勃起に必要な成分の分泌の過程や血管の拡張を正常化することで、EDだけでなく生活習慣病の予防など、根本的な治療を行うことができます。

サイトカインや成長因子が発毛を促す仕組みとは?

AGA(男性型脱毛症)では、毛の生え変わりのサイクルである「毛周期」のうち、成長期がほとんどない状態になっています。通常、毛髪は以下のようなサイクルで成長・生え変わりを繰り返しています。

成長初期
毛髪の生え始め。成長を開始する
成長期
毛乳頭・毛母細胞が活発に増殖を続け、毛髪が太く長く成長する
根本にある毛球部分も大きく太く成長する
退行期
毛乳頭細胞が小さく退縮し、毛髪が伸びにくくなる
休止期
毛乳頭細胞が活動を停止し、毛髪が抜け落ちる

毛乳頭細胞は、毛髪の成長を司る司令塔の役割をしている細胞です。毛細血管から酸素や栄養分を受け取ったり、毛母細胞に細胞分裂を開始したり、停止したりする司令を送る働きをしています。毛乳頭細胞から司令を受けた毛母細胞が細胞分裂をさかんに行うことで、毛髪は成長していきます。

しかし、AGAの人は、成長初期の状態に入ったかと思うと、すぐに休止期に入ってしまい、抜け落ちてしまいます。そのため、毛髪がなかなか伸びない、生えてこないという状態が続いてしまうのです。

発毛・育毛に関わる成長因子は、ED治療にも関与している「血管内皮細胞増殖因子(VEGF)」のほか、「ケラチノサイト成長因子(KGF)」や「インシュリン様成長因子(IGF)」です。ケラチノサイト成長因子(KGF)は名前のとおり、毛や爪などの主成分であるケラチンを産生するための因子です。

培養上清液を投与することで、ケラチンを産生する機能が高まる他、毛乳頭・毛母細胞の周囲の細胞が自ら成長因子を分泌するのを促進します。細胞レベルから毛周期サイクルを正常化することができるので、脱毛の抑制や育毛が一時的なものにとどまらず、髪の再生能力を高めてその人本来の毛髪を取り戻すことができるのです。

サイトカインや成長因子を使った治療に副作用はないの?

サイトカインや成長因子を使った治療は、幹細胞を培養した上清液を使用しています。つまり、幹細胞そのものを移植しているわけではなく、成長因子やサイトカインのたっぷり入った上澄みの液だけを使っているのです。このため、細胞移植や臓器移植につきものの免疫拒絶反応が起こるリスクが非常に少なくなります。効果も、幹細胞を移植した場合と同等、またはそれ以上の効果が期待できると言われています。

数ある幹細胞の中で、歯髄幹細胞を選んでいるのにも理由があります。現在、幹細胞治療で用いられている主な細胞には、歯髄・骨髄・臍帯血・胎盤・脂肪などから採取された細胞がありますが、骨髄や臍帯血は白血病や貧血など、緊急性の高い血液疾患の治療に利用されることが多いです。

また、胎盤は採取経路が不明であることが多く、安全性が低い傾向にあります。脂肪は採取経路による安全性の面ではそれほど問題はありませんが、脂肪吸引後の脂肪が用いられていることが多く、糖尿病や高脂血症由来の細胞が使われている可能性が高いこと、それによって細胞自体の老化が進んでいることなどのリスクがあります。

歯髄幹細胞は、ドナーや採取経路が確立していて、かつ歯の硬い層に守られて遺伝子に傷がつきにくい部分の細胞を使用しているため、上に挙げたようなリスクが非常に低く、安全性の高い幹細胞です。

PRP(多血小板血漿)療法との違いって?

自己治癒力を高める治療方法としては、PRP療法も最近の注目を集めています。これは、血小板が止血の作用の他に傷んだ組織の修復をする働きがあることに着目したもので、運動やスポーツなどで関節や靭帯などを損傷した時などに多く利用されています。

歯髄幹細胞培養上清液との最も大きな違いは、PRPは患者さんの血液から直接抽出するため、培養されておらず、成長因子やサイトカインはそれほど多く含んでいない点です。あくまでも傷に対する自己治癒力を高めることがメインの治療法であり、歯髄幹細胞培養上清液のように細胞賦活化の効果はそれほど期待できません。

おわりに:成長因子やサイトカインは、細胞を活性化する

成長因子やサイトカインは、細胞の増殖や傷ついた組織の修復などを促します。ED治療では損傷した血管細胞を修復し、薄毛治療では毛の細胞の増殖や成長を助けてくれる働きが期待されています。

また、患者さん自身の幹細胞にも働きかけるため、効果の持続性があり、副作用のリスクの少ない安全な治療法です。

監修 : ソラリアクリニックグループ特別顧問、泌尿器科専門医、指導医、医学博士 古賀 祥嗣

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