テストステロンを増やせる漢方薬があるって本当?

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男性ホルモンであるテストステロンは、男らしさや若々しさだけでなく、男性の健康にとっても重要な役割を果たしていることが近年になって知られてきています。そんなテストステロンですが、実際に減るとどのようなデメリットがあるのでしょうか?そして、テストステロンを増やせる漢方薬はあるのでしょうか?

テストステロンが減ると何がいけないの?

テストステロンは、いわゆる男性ホルモンのことで、筋力アップ・性欲亢進・社会性を高めるなど、男性らしさをつかさどるホルモンとも言われています。逆にテストステロンが減少すると、以下のようなデメリットが現れます。

  • 意欲・集中力の低下
  • 対人関係が面倒になる
  • 新しいことに挑戦する気力がなくなる
  • 眠りが浅くなる
  • 体のあちこちに痛みを感じる
  • 骨密度が低下し、骨折しやすくなる
  • 性欲が減り、朝勃ちしにくくなる
  • 善玉コレステロールが減り、メタボリックシンドロームのリスクが高まる
  • 動脈硬化からの心筋梗塞・脳梗塞のリスクが高まる

また、以下のような疾患・症状を発症しやすくなります。

ED(勃起障害)
テストステロンは血液の流れを助ける働きがあるため、減少すると血管に血液が流れにくくなる
ペニスの血管は体の中で最も細いため、加齢などの影響も受けやすい
血管が弱ってきたことの指標になるため、放っておくと脳梗塞や脳卒中などにつながることも
男性更年期障害(LOH症候群)
更年期障害には女性だけでなく、男性もなることがわかってきた
テストステロンの減少に伴い、中高年の男性で起こりやすい症状
集中力の低下・無気力・不眠・発汗・頭痛・めまいなど
動脈硬化
テストステロンは血管を拡張して血液の流れをよくする働きがある
テストステロンが減少すると、血管が硬くなる動脈硬化のリスクが高くなる
動脈硬化に伴って心筋梗塞や脳梗塞、狭心症などが引き起こされることも
認知症
テストステロンは脳の海馬を活性化させ、記憶や認知機能を高める
テストステロンが減少すると、これらの機能が低下し、理解力や思考力、判断能力が失われる可能性がある
前立腺がん
テストステロンの値が低い人は、悪性度の高い前立腺がんにかかる確率が高い

また、逆にテストステロン=男性ホルモンが多いとハゲやすいのでは?とも言われますが、テストステロンと頭髪の量に関係はないことがわかっています。例えば、男性型脱毛症と呼ばれるAGAはテストステロンによるものではなく、テストステロンが酵素の働きによって変化したジヒドロテストステロンという物質によるものです。その他、遺伝や食生活・生活習慣の乱れなどが脱毛の原因として挙げられます。

テストステロンの量が減少したかどうかを手っ取り早く調べられるのが、朝勃ちの有無です。朝勃ちは性欲とは関係がなく、陰茎の機能が正常であれば誰にでも機械的に起こる現象です。そのため、逆に朝勃ちが何日も続けて起こらなければ過剰なストレスや動脈硬化などのリスクが考えられます。具体的には、40代で約1週間程度朝勃ちがなければ、医療機関で検査を受けるとよいでしょう。

テストステロンを増やして更年期を改善するための漢方薬とは?

男性更年期(LOH症候群)の症状には、以下のようなものがあります。

精神症状
抑うつ・不安感・イライラ・神経過敏・落ち込み・疲労感
身体症状
骨密度・筋力などが低下する
発汗・ほてり、睡眠障害、記憶・集中力の低下
性機能に関する症状
性欲低下、勃起障害(ED)、朝勃ちがなくなる、射精感が減る

これらの症状は、漢方医学的には「脾虚(ひきょ)」「腎虚(じんきょ)」という代謝や生命力が落ちて全身機能が低下した状態と考えられます。また、その他にも「気虚(ききょ)」「気鬱(きうつ)」「血虚(けっきょ)」「水毒(すいどく)」などの症状も併発していると考えられ、女性の更年期と同じように冷えやすい状態になっています。

そこで、男性更年期障害に対して処方される漢方は主に「加味逍遙散(かみしょうようさん)」「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」などがあります。その他、諸症状に応じて以下のような処方がされる場合があります。

イライラ・不安感・抑うつ状態など
漢方医学的には「肝気鬱結(かんきうっけつ)」の状態で気のめぐりが悪くなり、「気逆(きぎゃく)」や「気鬱(きうつ)」を引き起こしていると考えられる
自律神経や精神的なストレスに効果が期待できる「柴胡剤(さいこざい)」を中心に処方される
「四逆散(四逆散)」「柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)」「加味逍遙散」「抑肝散(よくかんさん)」など
性欲の低下・気力の低下・全身倦怠感など
漢方医学的には「腎虚」という生殖機能・生命エネルギーが低下した状態であると考えられる
「腎」の働きを助け、エネルギーを補充する「補腎剤(ほじんざい)」を中心に処方される
「六味丸(ろくみがん)」「八味地黄丸(はちみじおうがん)」「牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)」など
食欲低下・消化不良・疲労回復の遅れなど
漢方医学的には「脾虚」という基礎体力が低下し、体の機能全てが低下した状態と考えられる
「脾」の機能を回復するための漢方を中心に処方される
「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」「六君子湯(りっくんしとう)」「人参湯(にんじんとう)」「十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)」など

中でも、テストステロンを増やす効果があるとされているのは「補中益気湯」や「牛車腎気丸」「八味地黄丸」などです。いずれも8週間程度服用することで、テストステロンの分泌が増えるという報告があります。

食事でも漢方薬的な対策ができる?

漢方薬が生薬による体質改善を主な効能としているように、東洋医学では「食養生」という考え方が基本となっています。すなわち、毎日の食事によって若さと健康を保つという考え方で、まずは日々の食生活によって心身の不調を遠ざけるとともに、それでも対処しきれない症状については薬剤を処方するという順番です。

特に、中医学では人体を臓器別ではなく、ひとつの大きな有機体として考えます。つまり、「五臓」と呼ばれる「肝・心・脾・肺・腎」の働きが互いに影響しあいながら身体として機能していると考えられているのです。五臓の中でも、成長や生殖能力、自律神経やホルモンバランスなどに深く関係しているのが「腎」という機能です。

男性更年期障害は、特に体力・気力・精力をつかさどる「腎」の機能が衰えている「腎虚(じんきょ)」の状態であると考えられています。そこで、「腎」を補充するための「補腎(ほじん)」の食材を摂取することが大切です。また、同時に「活血(かっけつ)」という血の巡りを良くする食材も摂り入れましょう。これによって摂取した栄養素を体のすみずみまで巡らせることができます。

血の巡りが良くなると、体がぽかぽかと温かくなり、気力が満ちてきます。また、脂肪の代謝を良くし、メタボリックシンドロームを予防するのにも効果的です。漢方医学における「食養生」はたまに食べることではなく、毎日少しずつ継続して食べることが大切ですから、簡単なレシピの常備菜をストックしておくのがおすすめです。

まずは、「腎」のエネルギーを補充する「補腎」の食材をご紹介します。

  • ヤマイモ・ニラ
  • 黒豆・焼き海苔・黒ゴマ
  • 干し貝柱・干しエビ
  • 味噌・赤身肉

「補腎」の食材として筆頭に挙げられるのが、ヤマイモやニラです。これらは古くから滋養強壮・強精などに効く生薬として使われてきました。さらに、黒豆や黒ゴマ、焼き海苔などの「黒い」食材も同様におすすめです。これらのメイン食材に、体を温めて気を巡らせる作用のある味噌や赤身肉、干し貝柱や干しエビなどを組み合わせて摂取すると、より効果が期待できます。

「活血」の食材には、以下のようなものがあります。

  • ニンニク・タマネギ・ショウガ
  • カレー粉・五香粉
  • オリーブオイル・黒酢・赤ワイン
  • ナツメ

ニンニク・タマネギなどは比較的さまざまな食材と組み合わせて摂取しやすい野菜です。タマネギが血液をサラサラにする、といった効能はよく言われていますが、この他にもカレー粉や五香粉、ショウガなどのスパイス類で体を温めることも血流を良くしてくれます。こちらも、オリーブオイルや黒酢、赤ワイン、ナツメなどと組み合わせて摂取することでより効果が期待できます。

また、食材の力は野生に近いほど高いと考えられているため、畑で栽培されるナガイモよりも山に自生している自然薯の方がより効能が高いとされています。また、冷たい状態よりも温かい状態で食べることも食養生の効果を引き出すポイントです。

おわりに:テストステロンは漢方薬でも増やせる!

テストステロンは、漢方薬によっても増やすことができます。しかしいずれも服用後すぐに効果が出るものではなく、8週間程度の服用が必要です。そこで、漢方薬だけではなく食生活の見直しも同時に行えば、より効果を期待することができます。

具体的には、「腎」を補充する「補腎」、血行を良くする「活血」などを積極的に摂取しましょう。薬だけでなく食養生の観点からもアプローチして、漢方の効果を高めましょう!

監修 : ソラリアクリニックグループ特別顧問、泌尿器科専門医、指導医、医学博士 古賀 祥嗣

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