漢方薬はED治療にも使える?どんなものがおすすめ?

ED

ED治療といえば、有名な「バイアグラ」「レビトラ」「シアリス」などのように、西洋医学的な投薬治療が有名です。しかし、東洋古来の生薬である漢方薬はEDの改善・治療に使えないのでしょうか?また、おすすめの漢方薬にはどのようなものがあるのでしょうか?

EDの原因と漢方的な考え方

EDの原因は、西洋医学的には以下のようなことが挙げられています。

  • 精神的なストレス・不安・うつ・あせりなど
  • 不摂生な食生活・アルコール類の摂りすぎ
  • 運動不足
  • 喫煙

これらは大きく心因性EDと器質性EDに分けられ、器質性EDの中で最も大きい原因は糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病であることがわかっています。不摂生な食生活や運動不足は特にこうした生活習慣病のリスクを高くしてしまいます。

これに対し、漢方では「腎(じん)・肝(かん)・心(しん)・脾(ひ)」の4つがEDと深く関わっていると考えられています。メインは生殖機能が含まれる「腎」で、生きるために必要なエネルギーや栄養の基本的な物質と考えられている「精」を貯蔵し、人間の成長や発育、生殖と水液や骨をつかさどっているとされている部分です。

漢方の古典である「黄帝内経(こうていだいけい)」によれば、男性の生殖機能はおよそ8年周期で変化します。16歳で射精が始まって子供が作れるようになり、24歳で腎気が強まり、32歳になると腎気が充実します。その後、40歳になると腎気は弱まりはじめ、56歳で衰え、64歳になると腎がつかさどる歯や髪が抜け落ちる、というサイクルです。ですから、40歳を過ぎて男性の生殖機能が衰えることは、漢方医学でも古くから知られていたことなのです。

「肝(かん)」は精神情緒と関係が深く、また血液をたくわえ、体内の血液量を調節する働きがあると考えられています。「心(しん)」は意識と関係が深く、循環器系の臓器と機能の「気血の流れ」=「精神・意識・思考などの心の動き」などをつかさどる機能です。「脾(ひ)」は胃腸と脾臓のことで、消化器系の機能をつかさどり、血管を保護する働きもあります。

つまり、心因性のEDだけでなく、糖尿病などによって血管や神経が傷害されて生じるEDにも、これらの機能を整える漢方薬が有効であると考えられるのです。漢方薬は症状そのものに対処する治療法ではなく、根本的な体質に働きかけて治療していく薬です。心身の状態を整えて安定させ、生活習慣の見直しや禁煙・食生活の改善とともに長期的にじっくりとEDを治療していきます。

ED改善に使える漢方薬とは?

漢方的な考え方からEDの原因を探っていくと、主な原因には「精神的ストレスなどによって肝の機能が弱まってしまったこと」「加齢や激しい肉体労働などで腎に蓄えられている精を消耗してしまったこと」の2つが挙げられます。

「肝」は通常、気の流れをコントロールし、筋肉の適切な働きを促しています。しかし、精神的なストレスに非常に敏感であるため、精神的ストレスがかかると肝の働きが弱まってしまい、陰茎の筋肉の働き(=勃起状態)を維持できなくなってしまいます。さらに、気の流れが悪くなることで体内の血液量の調整がうまく行かなくなり、血の流れが悪くなります。すると、陰部にしっかりと栄養が行き渡らなくなり、やはり勃起不全につながります。

肝」をいたわり、気血の流れをよくするためには生薬である「理気薬(りきやく)」の「柴胡(さいこ)」「枳実(きじつ)」「陳皮(ちんぴ)」「半夏(はんげ)」「厚朴(こうぼく)」「香附子(こうぶし)」などを含んだ漢方薬が使われます。不安感が強い人には、より気持ちを鎮める働きの強い「竜骨(りゅうこつ)」「牡蠣(かき)」「酸棗仁(さんそうにん)」「遠志(おんじ)」などの「安神薬(あんしんやく)」も合わせて使われます。

「腎」に蓄えられている「精」が加齢や激しい肉体労働によって失われると、生殖能力が低下し、EDに陥ると考えられます。精は成長・発育・生殖に必須の物質であるため、加齢によって徐々に失われていくものです。そのため、加齢によってある程度弱まってしまうのは仕方のないことだと考えられます。しかし、激しい肉体的な疲労などで休息に精が失われてしまう場合は注意が必要です。

精神的な問題よりもこれら肉体的な問題の方が強い場合、「精」を補いながら気血も補っていく対策が有効です。精は「鹿茸(ろくじょう)」、気は「人参(にんじん)」「黄耆(おうぎ)」「大棗(たいそう)」「白朮(びゃくじゅつ)」「甘草(かんぞう)」、血は「地黄(じおう)」「当帰(とうき)」「芍薬(しゃくやく)」「阿膠(あきょう)」「酸棗仁(さんそうにん)」「竜眼肉(りゅうがんにく)」などの生薬が有効です。

その他、「気(き)」「血(けつ)」の不足、余分な水分が停滞する「水湿(すいしつ)」が気血の流れを妨げること、などがEDの原因として考えられています。これらのうちどれかひとつだけの原因からEDを発症することは少なく、生薬をバランスよく含んだ漢方薬を使用していくことになります。

ED改善のために使われることが多い漢方薬は以下のとおりです。

  • 補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
  • 八味地黄丸(はちみじおうがん)
  • 牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)
  • 半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
  • 加味逍遙散(かみしょうようさん)

これらの他にも、ひとりひとりの病状によってそれぞれ違う漢方が用いられます。

マムシやスッポンって効くの?

生薬でEDや性欲減退を改善するというと、古くから精力剤として使われてきたマムシやスッポンなどを想像する人も多いでしょう。しかし、マムシやスッポンにEDを直接改善する効果はないことがわかっています。どちらも人を対象とした研究において、これらを摂取することでEDが改善したとする信頼できる報告はありません。

しかし、EDを直接改善する目的ではなく、あくまでも補助的に使うのであれば全くの無駄というわけでもありません。マムシは血流改善に、スッポンは良質なタンパク質の摂取にそれぞれ良い効果があることが期待できます。

マムシに含まれる成分は、必須アミノ酸やカルシウム・各種ビタミン類などが主で、血流の改善や血液低下によいペプチドや、コレステロール値を下げるリノール酸なども含まれています。そのため、これらの成分によって疲労が回復したり、血流が改善する効果が期待できます。疲労によって一時的に性欲が失われている状態であれば、改善も期待できるかもしれません。

また、スッポンには良質なタンパク質が多く含まれているため、男性の精子を作るのに必要なタンパク質を効率的に補給できます。そのため、精力増強の効果が期待されてきました。しかし、これはどちらかというと伝統医学的な位置づけであり、科学的に「性欲が改善する」という根拠があるわけではありません。あくまでも、成分上期待できるのは良質なタンパク質を摂取することで精子の産生を増やす、疲労回復を見込めるといった効果にとどまります。

おわりに:ED治療にも漢方薬を使うことができる!

EDは、東洋医学的な考え方によっても治療することが可能です。漢方では主に「心因性ED」「器質性ED」の両面からアプローチしていくことになります。漢方は西洋医学の薬剤とは違い、体質を根本的に改善してEDも治療していくことを目的としています。そのため、漢方薬だけに頼らず、生活習慣や食生活・運動習慣なども同時に改善していくことで、より早く効果を実感することができるでしょう。

監修 : ソラリアクリニックグループ特別顧問、泌尿器科専門医、指導医、医学博士 古賀 祥嗣

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