歯髄幹細胞治療は、男の悩み(ED、薄毛etc)を解決できるか?

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歯髄幹細胞治療とは、歯髄幹細胞という細胞を培養したときの上澄み液を使い、EDや薄毛など、男性の悩みを解決しようという治療法です。では、歯髄幹細胞治療とは、いったいどのような治療で、どんな仕組みでEDや薄毛に働きかけているのでしょうか?

歯髄幹細胞治療(歯髄幹細胞培養上清液治療)とは、どんな治療?

歯髄幹細胞治療(歯髄幹細胞培養上清液治療)とは、再生医療に関連する治療の一種です。再生医療とは、自然治癒では治すことのできない組織や臓器を再生させ、身体機能を回復させる治療のことです。脳梗塞や脊髄損傷などの中枢神経疾患を初め、iPS細胞やEPS細胞など、「幹細胞」を利用した再生医療の実用化が熱心に研究されています。

幹細胞とは、細胞がとある機能だけに特化して分裂(分化)する前の、いわば植物の種のような細胞のことです。造血幹細胞、神経幹細胞、生殖幹細胞など組織ごとに存在する幹細胞と、iPS細胞(人工多能性幹細胞)やES細胞(胚性幹細胞)のようにどんな組織のどんな細胞にも分裂できるものの2種類があります。

歯髄幹細胞とは、組織ごとに存在する幹細胞の一つで、歯の内部空洞(歯髄腔)に存在しています。歯髄組織は胎児の頃の頭部の神経細胞から分化したと考えられていて、神経や血管、歯の象牙質の栄養や修復を司る細胞などが含まれています。この歯髄幹細胞を培養した上澄み液を歯髄幹細胞培養上清液と呼んでいます。

再生医療では幹細胞そのものを使いますが、歯髄幹細胞治療(歯髄幹細胞培養上清液治療)では、培養した際の上澄みである培養上清液を投与します。これまでは幹細胞そのものを移植する治療が一般的でしたが、細胞を移植する方法は臓器移植と同様、免疫による拒絶反応や保存・培養方法などに多くの課題が残されていました。

しかし、培養上清液を投与する方法は細胞そのものを移植するわけではないため、拒絶反応のリスクは少なく、効果に関しても幹細胞を移植したときと同様、患者さん自身の幹細胞の働きを助け、損傷した組織の修復や保護ができることがさまざまな研究からわかっています。

歯髄幹細胞培養上清液に含まれる成分って?

歯髄幹細胞だけでなく、幹細胞の培養上清液には、さまざまな成長因子※1、エクソソーム※2やサイトカイン※3が含まれています。これらは生理活性物質と呼ばれ、細胞の成長や増殖、そして再生に必要な成分です。これらの生理活性物質を損傷部位に直接注入することで、細胞の再生機能を促し、組織の機能回復を目指すことができます。

培養上清液の投与は、幹細胞移植と同じかそれ以上の効果が得られるといわれています。しかし、幹細胞の種類によって、含まれる成長因子はそれぞれ違います。そして、歯髄幹細胞の培養上清液に、とりわけ乳歯の歯髄幹細胞培養上清液には、非常に多くのタンパク質成分が含まれていることがわかっているのです。

乳歯の歯髄幹細胞培養上清液に含まれるタンパク質の数は500種類以上とされ、特に、サイトカインと呼ばれている細胞の働きを活性化させる物質が非常に多く含まれていることから、脂肪や臍帯などの幹細胞を使うよりも効果的であると考えられているのです。
※1 成長因子(Growth factor)とは、体内において、特定の細胞の増殖や分化を促進する内因性のタンパク質の総称。
※2 Exosome(エクソソーム・エキソソーム)は、ほとんどの細胞で分泌される直径50nm~150nm程度の膜小胞。
※3 サイトカイン(cytokine)とは、免疫システムの細胞から分泌されるタンパク質で、標的細胞は特定されない情報伝達をするもの。

EDや男性の薄毛にも効果はあるの?

歯髄幹細胞治療(歯髄幹細胞培養上清液治療)は、既に様々な治療に使われ始めています。EDやAGA(男性型脱毛症)の治療に使われており、これらは加齢に伴う疾患であり、発症する前に既に体に根本的な変化が起こってしまっている場合が多いため、これまでは根治することが難しいといわれていました。

しかし、近年のバイオ技術の進歩により、個人の遺伝子やmRNA、タンパク質、代謝産物など、病気の発症前に発症を予測して予防する「先制医療」が注目されています。培養上清液を使った予防的な治療は、この「先制医療」につながる治療法としても期待されています。

EDを歯髄幹細胞治療(歯髄幹細胞培養上清液治療)で治すしくみとは?

EDとは、勃起の際に陰茎海綿体で拡張する血管の内皮細胞が何らかの原因で損傷したり、硬くなったりして血管が拡がりにくくなり、勃起が起こりにくくなる現象です。糖尿病や高血圧、脂質異常症などの人ではEDになるリスクが高くなるのはこうした理由によるものです。

これまで、EDを治療するには生活習慣の改善の他、バイアグラ®・レビトラ®・シアリス®などの薬による治療が行われてきました。これらの薬による治療では、血管の内皮細胞に含まれるeNOSという物質の分泌に働きかけて勃起を促していました。ところが、内皮細胞の機能そのものに損傷がある場合、eNOSの分泌がほとんどされなくなるため、これらの治療薬でEDを治すことはできませんでした。

しかし、歯髄幹細胞治療(歯髄幹細胞培養上清液治療)では、血管の内皮細胞そのものの再生を試みます。これにより、分泌機能それ自体が改善され、結果としてeNOSの分泌も正常に戻るという仕組みです。細胞そのものの再生に働きかけるため、薬のように注射を長期間に渡って打ち続ける必要もなく、効果が長く続きます

治療期間には個人差がありますが、週1回×4回、約1ヶ月程度を1クールとして治療します。患者さんの9割がこの治療法で国際勃起機能スコア(IIEF-5)の正常範囲内に改善されているという報告もあります。

AGAを歯髄幹細胞治療(歯髄幹細胞培養上清液治療)療で治すしくみとは?

AGA(男性型脱毛症)とは、男性ホルモンが頭髪の発育に関わる毛乳頭や毛母細胞の働きを弱めてしまうことで起こります。これらの細胞や組織は毛根の最も深い部分に存在します。正常な毛根であれば毛乳頭が毛髪の発育に必要な栄養分を吸収し、毛母細胞が細胞分裂を繰り返すことで毛が育っていきますが、DHTと呼ばれる活性型男性ホルモンはこの毛乳頭や毛母細胞の働きを弱めてしまうのです。

この活性型男性ホルモンの量には個人差があり、AGAになる人とならない人がいます。しかし、AGAになってしまった人でも発毛機能は失われたわけではなく、弱まっているだけです。そこで、適切な治療を行えば再び毛髪の成長を促すことができるのです。

歯髄幹細胞治療(歯髄幹細胞培養上清液治療)では、毛乳頭の周囲に培養上清液を直接注入します。すると、毛母細胞が活性化され、発毛のための細胞分裂がさかんになります。さらに、毛母細胞の周囲の細胞からも細胞分裂に必要な栄養分が供給されるようになり、発毛のヘアサイクルが正常に近づいていきます。

これにより、脱毛を抑制したり、一時的な育毛を促進したりする従来の治療法とは異なり、本来その人が持っている発毛機能の再生による発毛・育毛を目指すことができます。また、培養上清液の注入には非常に小さい穴からのジェット噴射を使用するため、注射針やダーマニードルなどを使う治療法と違い、痛みや頭皮へのダメージも少ないこともメリットです。

治療期間にはこちらも個人差がありますが、月に1度、4回程度の治療で効果を実感する人が多いようです。また、治療期間中にパーマやカラーリングなど、頭髪や頭皮に負担のかかることはできませんので、パーマやカラーリングを考えている人は治療の2週間前までに済ませておくか、治療が終わってから行いましょう。

歯髄幹細胞治療(歯髄幹細胞培養上清液治療)に期待されているその他の効果

歯髄幹細胞治療(歯髄幹細胞培養上清液治療)には、EDやAGAの治療以外にもさまざまな効果・効能が期待されています。豊富に含まれる成長因子やサイトカインによって、脳梗塞や心筋梗塞などの梗塞系疾患、糖尿病、肝硬変、高血圧、アトピーなどの発症リスクを軽減することができるのではないかといわれています。マウス実験では、脊髄を損傷して歩けなくしたマウスに培養上清液を投与したところ、下肢の運動麻痺が改善して歩けるようになったという報告もあります。

例えば、血管内に投与された培養上清液は、体内を循環しながら傷んだ組織を修復する効果が期待されています。さらに、脳下垂体を刺激し、ホルモンバランスを整えることで新陳代謝を高めたり、自己複製して再生したりする能力から、体内の各組織を再生し、アンチエイジングにも効果があるのではないかとされています。

また、歯髄幹細胞培養上清液は、既に糖尿病の合併症を予防するのにも使われています。ホーミング効果という、傷ついた細胞からシグナルが発され、必要な成分がシグナルのもとへ集まる仕組みにより、血管が修復されることがわかっています。また、合併症の一つである腎機能障害の指標であるクレアチニンの数値も下がることがわかっています。

おわりに:歯髄幹細胞治療で、男の悩みを解決しよう

歯髄幹細胞治療(歯髄幹細胞培養上清液治療)は、傷ついた細胞や弱った細胞に働きかけ、機能や組織を修復することができます。これにより、薬剤による一時的な治療ではなく、根本的な治療が望めます。加齢によるものと諦めず、いつまでも若々しさを保ちましょう。

監修 : ソラリアクリニックグループ特別顧問、泌尿器科専門医、指導医、医学博士 古賀 祥嗣

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