薄毛・AGAは漢方薬で改善できる?

薄毛

薄毛やAGA(男性型脱毛症)など、男性の髪の悩みは多いものです。いつまでもふさふさの黒髪でいられれば、若々しく生き生きとして見えるもの。そのため、誰でも薄毛やAGAはできるだけ防ぎたいと考えるのは自然なことです。

では、薄毛やAGAは、漢方薬で改善できるのでしょうか?また、どんな漢方薬が使われるのでしょうか?

漢方で改善できる薄毛は限られる

漢方医学の考え方では、人間の体の調子は「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」のバランスによって保たれているとされています。漢方薬は、主にこの3つの要素のバランスを整えるように処方されます。

「気(き)」
目には見えない生命エネルギーのこと
体を支える原動力となるもので、自律神経の働きに近いとされる
「血(けつ)」
主に血液のことをさし、全身を巡ってさまざまな組織に栄養を運ぶ
「水(すい)」
水分の代謝や免疫・消化吸収に関わり、体をうるおす

「気」「血」「水」のどれが足りないかによって、抜け毛・薄毛以外の自覚症状として現れてくるものが異なります。

「気」の不足(気虚):自律神経の乱れ
自律神経の働きに近いと言われる「気」が不足すると、代謝が悪くなり精神に悪影響を及ぼす
血管が収縮するため、頭皮に血液が行き渡らず頭皮環境が悪くなり、髪が成長しにくくなったり抜けやすくなったりする
疲労感やだるさが抜けず、無気力な状態になる
ストレスが多くなったり不眠になったりする
「血」の不足(血虚):血行不良
血液そのものが不足したり、流れが悪くて栄養が行き渡らないと、髪が育たない
漢方医学では、髪は「血の余り」と考えられているほど、血液循環は大切
西洋医学でも、健康な髪のためには血液が栄養素をしっかり運んでいることが重要
「腎」の衰え(腎虚):内臓機能の低下
「腎」が不足すると、内臓機能が低下し体が冷えたり乾燥したりする
血管が収縮したり頭皮が乾燥したりして頭皮環境が悪くなり、髪が十分に成長できなくなる
不眠症を引き起こすこともある

抜け毛・薄毛がこうした血行や自律神経、内臓などの機能低下に起因するものであれば、漢方薬を使って改善することができます

どんな漢方薬が使えるの?

上でご紹介した「気」「血」「水」のどれが乱れているかによって、有効な漢方薬も異なります。

「気」の乱れを整える漢方薬って?

「気」の乱れを整える漢方には、「柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)」や「桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)」があります。それぞれ、以下のような効能があります。

柴胡加竜骨牡蛎湯
不眠を解消する
気持ちを落ち着かせる
ストレスを緩和する
桂枝加竜骨牡蛎湯
神経過敏・不眠などの解消
疲労回復
眼精疲労の解消

「柴胡加竜骨牡蛎湯」は、ストレスを緩和し気持ちを落ち着かせる効果があります。そこで、イライラしやすい人や不安感が強い人、ストレスの強い人などにおすすめです。「桂枝加竜骨牡蛎湯」は、神経過敏や不眠症、疲労感を軽減してくれます。そこで、精神的ストレスの多い人や不眠症の他、虚弱体質の人などにも効果が期待できます。

「血」の不足を補う漢方薬って?

「血」の不足を補う漢方には、「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」や「十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)」があります。それぞれ、以下のような効能があります。

当帰芍薬散
冷え性・貧血を改善する
肩こり・耳鳴りを緩和する
十全大補湯
血流を改善する
不足している血液を補う
冷え性・貧血を改善する

「当帰芍薬散」は、冷え性や貧血を改善し、肩こりや耳鳴りを緩和する効果があります。そこで、冷え性やむくみ、生理不順、めまいや貧血に悩まされている人の他、更年期障害にも効果があります。「十全大補湯」は、当帰芍薬散と同様に冷え性や貧血を改善する効果の他、血流を良くし、不足している血液を補う効果が期待できます。そこで、冷え性や貧血の他、疲労感や倦怠感、体力の低下などに悩まされている人におすすめです。

「当帰芍薬散」や「十全大補湯」には「気」と「血」の両方を補うことができる生薬が配合されているため、「気」と「血」の両方が乱れたり不足したりしている場合におすすめです。ストレスを緩和し神経が過敏になっている状態を回復させ、さらに栄養を体のすみずみに行き渡らせるサポートを行うことができます。

「腎」の衰えを改善する漢方薬って?

「腎」の衰えを改善する漢方には、「八味地黄丸(はちみじおうがん)」や「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」があります。それぞれ、以下のような効能があります。

八味地黄丸
体を温める
新陳代謝を高める
内臓の働きを良くする
補中益気湯
虚弱体質を改善する
疲労回復
食欲不振を改善する

「八味地黄丸」は、体を温めて新陳代謝を高めるとともに、内臓の働きを良くする効果があります。そこで、疲れやすい人や冷え性・腰痛のある人、頻尿の人などに効果があります。「補中益気湯」は、虚弱体質を改善したり、疲労を回復する、食欲不振を改善するなどの効果が期待できます。そこで、体力がなく疲れやすい人や、胃腸の働きが悪い人におすすめです。

「八味地黄丸」や「補中益気湯」は、「水」とともに「気」「血」を同時に補うことができる生薬が配合されているため、体をうるおして温め、弱った内臓機能に栄養を与える働きをサポートすることができます。

漢方薬を飲むときの注意点

漢方薬を飲むときには、「白湯で飲む」「食前に飲む」の2つに気をつけて飲みましょう。漢方薬も薬ですから、ジュースや牛乳で飲むよりもただの水で飲む方が効果を発揮できます。さらに、温めた白湯で飲むことで、同時に体を温め、吸収率を高められます。抜け毛を改善するために薬剤として飲むのであれば、できるだけ白湯で飲むことを心がけましょう。

また、飲むタイミングは食前が良いでしょう。多くの漢方薬が食前(空腹時)の服用を推奨しています。これは、食前に飲む方が生薬の吸収率が良いからです。ただし、八味地黄丸などは消化器官に刺激を与える「地黄(じおう)」という成分が含まれているため、消化器官が弱っている人では食後に飲む方が良い場合もあります。医師や薬剤師にきちんと相談してから飲みましょう。

効果が出ないな?と思ったら

漢方薬は、効果が出るまでに時間がかかります。特に、体質改善には半年以上という長い時間がかかることもあり、服用してすぐには効果が実感できない人も少なくありません。しかし、漢方薬はそもそも生薬ですから、効き目も穏やかでゆっくりと体質に変化が出てくるものです。1〜2ヶ月で効果がないからとやめてしまうのはまだ早いのです。半年程度を目安に、継続的に漢方を服用していきましょう。

また、残念ながら体質的に漢方薬では効果が出にくい人もいます。副作用が比較的少なく、体質改善効果がある漢方薬ですが、その効き目には西洋医学の薬剤と同じく個人差があります。半年から1年程度漢方薬を服用しても効果が実感できない場合、体質的に漢方薬が効きづらいか、生薬そのものが体質と合わない場合があります。その場合も、医師や薬剤師に相談してみましょう。

おわりに:薄毛・AGAが漢方薬で改善できることもある

薄毛・AGAの原因が自律神経の乱れや血流の悪さ、内臓機能の低下などから来るものであれば、漢方薬で改善することは可能です。「気」「血」「水」のバランスを整え、不足していれば補充するような漢方薬を使って体の不調を体質から改善していきます。

漢方薬の効果は一朝一夕に出るものではありません。少なくとも半年から1年は継続的に服用し、それでも効果が実感できない場合は医師や看護師に相談しましょう。

監修 : ソラリアクリニックグループ特別顧問、泌尿器科専門医、指導医、医学博士 古賀 祥嗣

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