ポストフィナステリド症候群ってどんな副作用なの?
「ポストフィナステリド症候群」という言葉は、まだあまり一般的に知られていません。これは、「フィナステリド」という成分を含んだ薬剤を使うことによって起こる副作用と言われており、日本でよく使われる薬剤ではプロペシア®という脱毛抑制剤に含まれている成分です。
では、ポストフィナステリド症候群とは具体的にどんな症状を指すのでしょうか?また、プロペシア®の副作用にはそのほかにどんなものがあるのでしょうか?
ポストフィナステリド症候群とは!?
ポストフィナステリド症候群とは、フィナステリドの服用を終えてもフィナステリドの副作用が続いてしまう、また、フィナステリドの服用を終えて一定期間が経過したのちにフィナステリドの副作用のような症状が起こることを言います。近年になってアメリカで注目されるようになった症状で、アメリカではポストフィナステリド症候群財団が立ち上げられ、ポストフィナステリドの研究が進められています。
これに続いて日本でもポストフィナステリド症候群に注目が集まっていますが、ポストフィナステリド症候群を発症するのはフィナステリドを服用して副作用が出た人のうち、さらにその5%という比較的低い発症頻度の疾患です。そこで、まだ「なぜこうしたことが起こるのか」がまだわかっておらず、現在はまだ有効な治療法が確立されていません。
フィナステリド自体、まだまだ歴史の浅い医薬品ですから、今後の研究に期待されます。とはいえ、イギリスやスイス、アメリカに続き日本でも、フィナステリド薬剤の注意書きには「勃起機能不全や射精障害、性欲減退などの症状が投与中止後も継続した例がある」という文言が記載されるようになっています。
フィナステリド(プロペシア®)の副作用とは!?
フィナステリドの副作用には、主に3つの症状があることが指摘されています。
- フィナステリドへの過敏症
- 生殖器への悪影響
- 肝機能障害
フィナステリドへの過敏症は、薬剤へのアレルギー反応であり、全ての薬剤で体質によってある一定の確率で起こりうる症状です。かゆみ・発疹・血管浮腫などの症状が見られることがありますが、頻度は高くありません。
生殖器への悪影響は、全体の約1〜5%程度の割合で起こることが知られています。フィナステリドは「5α-リダクターゼ」という還元酵素の作用を阻害し、DHTという男性ホルモンの一種をへらす働きによって脱毛を抑制する薬剤です。これにより、睾丸痛・男性不妊・精液の質の低下・性欲減退・勃起機能不全・射精障害・精液量減少などの副作用が現れることがあります。
内服薬のほとんどが肝臓代謝であり、フィナステリド(プロペシア®)も例に漏れず肝臓代謝であることから肝機能障害を引き起こす可能性がありますが、その頻度は高くありません。肝機能障害が起こるとAST(GOT)・ALT(GPT)・γ-GTPなどの肝酵素の数値が高くなることがわかっているため、健康診断などで数値が高い場合には注意が必要です。
その他、乳房痛や乳房肥大・抑うつ症状・めまいなどが報告されています。男性乳がんの発生報告もありますが、これはフィナステリドとのはっきりとした因果関係は認められていません。抑うつ症状に関しては、性欲の減退によって精神状態が悪化することも大きく関係していると考えられるため、フィナステリドの副作用として引き起こされている割合は少なくないと考えられています。
「初期脱毛」はフィナステリド(プロペシア®)の副作用じゃないの?
フィナステリドの服用を始めると、突然抜け毛が増えたという人が多くいます。これは、フィナステリドの効果が現れ始めて毛髪の成長サイクルが正常になる過程で起こると考えられています。AGAに悩む人の毛髪サイクルは、通常の毛髪サイクルのうち成長期が短く、髪の毛が太く長く成長しないため、その後の毛髪サイクルで成長してくる髪の毛に押し出されるような形で未熟な弱い髪の毛が抜け落ちていくのです。
初期脱毛の開始時期には個人差があり、数日〜1ヶ月以上経ってから始まったという人もいますが、多くは服用から2〜3週間程度で始まります。また。抜け毛の量にも個人差があります。初期脱毛が始まると驚く人は多いですが、そこで服用をやめずに飲み続けることで、フィナステリドの効果を感じられる正常な毛髪サイクルに戻すことができます。初期脱毛があったからといって副作用による悪影響と決めつけず、医師に決められた服用期間をしっかり守って飲み続けてください。
本当に薬の副作用かどうかはわからない!?
実は、プロペシア®の副作用には科学的な根拠はほとんどありません。アメリカと日本の両方でプロペシア®の臨床試験は行われていますが、そのどちらも全体として副作用の発症率は約4.0%です。
症状 | 日本 | アメリカ |
---|---|---|
性欲減退 | 1〜5%未満 | 1.8% |
勃起不全(ED) | 1%未満 | 1.3% |
精液減少 | 1%未満 | 1.1% |
この臨床試験において、症状の軽度〜重度については考慮されていません。つまり、極めて軽微な副作用であったとしても、症状が認められた場合は「副作用あり」としてカウントされているため、本当に薬剤の副作用かどうかの判断が難しい例もあったと考えられます。
また、勃起不全(ED)に関しては、日本で副作用の発症とされたのは1%未満です。そもそも日本の成人男性の6.2%がEDであり、ED予備軍も含めるとさらに飛躍的に患者数が上がる中、今回たまたまプロペシア®の臨床試験でED予備軍が紛れていた可能性が否定できません。
さらに、プロペシア®の作用機序からすると、男性の性機能に対して作用することは考えにくいとされています。つまり、性機能を司るテストステロンを減少させる働きはないため、テストステロンの分泌量に影響を与えることはないのです。
プロペシア®の臨床試験は、何年にもわたって行われるため、この臨床試験の長期間のストレスが性機能を低下させた可能性があります。また、AGAの治療を始める人には高齢者が多いため、加齢による性機能の低下が臨床試験の間に進行した可能性もあります。
以上のことから、プロペシア®の副作用については、はっきりとした科学的根拠があるとは言いづらい状態です。ですから、ポストフィナステリド症候群に関してもやはり見極めが難しく、フィナステリドの副作用そのものではないのに、服用をやめた後で薄毛が進行し、ストレスが増えることで男性機能に支障が出ることも考えられます。
今後のさらなる研究によって、科学的な関連性の有無に関する証明が待たれます。
おわりに:ポストフィナステリド症候群に科学的根拠はまだない
ポストフィナステリド症候群は、そもそもフィナステリド自体が新しい薬剤であることもあって、報告された副作用についてフィナステリドとの十分な関連性が証明されているとは言えない状態です。
男性の性機能はデリケートであり、薬剤の副作用以外の要因でも障害が出る可能性があることも事実です。ポストフィステナリド症候群に関しては、今後のさらなる研究が待たれる分野です。